第3話前編「Café&Meal MUJIの
クリームソーダ」
登場人物
株式会社良品計画カフェ・ミール事業部
松岡勇さん・日向桃子さん
クリームソーダを、もう一度。
カランカランとベルを鳴らして、喫茶店に入る。
ランランと目を輝かせ、ソーダの上に浮かぶソフトクリームにスプーンを入れる。
やがてクリームはとけ、色も味も変わっていく。
クリームソーダには、おいしさと楽しさがありました。
あのクリームソーダはどこにいったのでしょう。
喫茶店でもめったにお目にかかれなくなりました。
時代の流れとはいえ、少しさびしくもあります。
と、そんな中、クリームソーダをもう一度、と考えていた人たちがいます。
株式会社良品計画カフェ・ミール事業部の松岡勇さんと日向桃子さんです。
はじまりは、「森林ノ牧場のジャージー牛乳」と「本和香糖」。
きっかけは、ある牛乳とお砂糖から。Café&Meal MUJIのソフトクリームには「森林ノ牧場のジャージー牛乳」を採用しています。森林ノ牧場は、手入れが困難な森林にジャージー牛を放牧することで草を食べさせ、森を再生する取り組みをされている牧場です。ここでとれるジャージー牛乳は、じっくり低温殺菌されているため、牛乳本来の濃厚な風味を残しています。お砂糖は「本和香糖(ほんわかとう)」。沖縄産のさとうきびを原料とした精製していない砂糖を使用しています。
日向さんが笑顔で言います「開発当時、本和香糖と牛乳との相性が良いことが分かったので、森林ノ牧場のジャージー牛乳と本和香糖でソフトクリームを作ったんです。そしたら『こんなおいしいソフトクリームができたんだから、これを使ってクリームソーダを作りましょうー』…と言いだしたのが、松岡です(笑)」。松岡さんは関西出身の調理担当マネージャー。現在、世界中の産地を駆け回り、新しい食材を探しメニュー開発に取り組んでいます。「いやー、僕は本当にこのソフトクリームがおいしいなと思って。
通常、ソフトクリームって味を安定させるために添加物が入っているんですが、ここは全然入ってないんですよ。だから口ん中でしゅーっと、とけていく感じがあって、その瞬間、頭のどこかに小さい頃に好きだったクリームソーダの思い出が蘇ってきて、つくらなあかんと思ったんです」。こうしてソフトクリームからクリームソーダへとメニューは発展していきます。ただし、そのまま普通のソーダにソフトクリームを浮かべるだけでは、自分たちらしい味にはなりません。ここからが「のみもののよみもの」のはじまりです。
「素のおいしさ」を求めて。
“もぎたてのトマトをまる齧りしたときの、あのみずみずしい甘みや酸味。
Café&Meal MUJIが大切にしているのは、たとえばそんな「素の食」のおいしさです。
太陽や土、水の恵みがたっぷりと染み込んだ素材そのものの味を生かし、
自然のうま味を引き出すために、できる限りシンプルに調理しています。” (一部抜粋)
これは、Café&Meal MUJI が大切に守り続けているコンセプト。いつも「素のおいしさ」を軸に自然のうま味を生かした食の提案が行われています。そこに足を運ぶお客様は、消費者というよりも、むしろコンセプトを支持するファンのような存在。そんなCafé&Meal MUJIが作るクリームソーダですから、もちろん従来の印象を覆す「素」のおいしいソーダでなければなりません。松岡さんは真っ先に友桝飲料が浮かんだと言います。「12年ほど前に一緒にお仕事をする機会があり、とても丁寧な対応でした。その時、いろんなサイダーを試飲させてもらったのですが、どれもがおいしくって。僕はすぐ忘れるタイプなんですけど、味の記憶だけは忘れないんです」。
近年、友桝飲料にも無添加無着色のオリジナルドリンクの製造を望まれる声が多くなっています。しかし、流通や保存方法などを加味すると、なかなか推奨した条件や環境が満たせないのが実情です。ただ今回ばかりは違いました。実際に鮮度が高いまま、すぐに提供できる場があり、食への高い意識を持つ多くのお客様がいます。そして何より一貫されたコンセプトがあります。友桝飲料は迷うことなく「素」のソーダ開発に協力させて頂くことになりました。
開発担当者、サイダー伊藤。
この開発を担当したのが、年間150種類の飲料を開発してきた友桝飲料の中でも、屈指のサイダーマニアとして知られる、商品開発部の伊藤光俊氏(サイダー伊藤という名でテレビに出演したことも!)。まずは、販売を開始していたソフトクリームを食べに南青山まで足を運び、そのソフトクリームの味をしっかり記憶して帰ったといいます。
梔子と紅花がつくる、自然の色。
色については、全く色を使わないという選択肢もありましたが、それでは、あの頃食べた思い出から遠いものとなってしまいます。試行錯誤の末、すべて自然素材で作り出すことにしました。発酵させることで青色の色素がとれる梔子(クチナシ)と、黄色の色素がとれる紅花(ベニバナ)の天然素材で生み出した色は、爽やかな明るいエメラルドグリーンに。これまでのメロンソーダの色に見慣れていると薄いと指摘されるのでは…という懸念もありましたが、不安をよそに「ナチュラルな感じがする素敵な色」だと一回目の試作で松岡さんも日向さんも高評価。「素のおいしさ」を伝えたい想いが一致しているからこそ、誰も異を唱える人はいなかったと言います。
こうして大きな手応えを感じられる試飲会になりました。
しかし、試作はかなりイメージに近かったものの、その時、松岡さんには炭酸の強さや甘みなど、まだ少し気になる部分があったのです。